狼少年とたぶん百一匹くらいの狼 - 6/6

~誰得・おまけのおまけコラム~
先代ユーリ爺さんとイヴァノーフ家について

前提・祖霊狼たち

 狼、っていうかむしろ大型犬に近いナニカ。主にユーリの父方の血筋、イヴァノーフ家の先祖の魂からなる。当然人間としての命はとっくに終えており、現在は聖獣達を含む神々の世界、つまりあの世で暮らす。肉体はもうないので基本現世に干渉はできない。あの世でなら触れたりすることは可能。
 年齢は死亡時点のものがイヌ科のそれに換算されて反映される。だいたいみんな‟頭と背中が赤で、顔からお腹が白。目は黄色”というハスキーみたいな柄だが、生前の自分自身が認識している自己像にも依るため、たまに毛色や毛の長さ、虹彩色が違う個体がいる。
 文中にて現ユーリが「四足歩行なのにどうやってお茶を淹れるのか?」と不思議がっていたが、普通に任意で人間体型に戻れる。ただ普段は狼の方が気に入っているらしい。
 家の内外との関係が色々あったので、彼と一緒でみんな微妙に人間が嫌いなのかもしれない。

ユーリ・‟ヴォルコヴィッチ”・イヴァノーフ

 先代の‟ユーリ・イヴァノーフ”だった爺さん。記録上で確認される、“紅のイヴァノーフ家”最後の正式な当主。ゆえに実質的な現当主として、今も祖霊達のまとめ役を担う。現ユーリから見ると高祖父に当たる。
 本家の娘の私生児として生まれ、本来は当主の継承権などなかったが、とある理由により本家に呼び戻され、国まで絡む家督争いに巻き込まれることとなる。
 父称の「ヴォルコヴィッチ」は「狼の息子」の意味。捕虜になった時に身籠っていた母が、頑なに父親について明かすのを拒んだため、仕方なくこういうことにされている。生前も主に「ヴォルク」と呼ばれていた。

 現ユーリと同じ赤髪。しかし虹彩色は南京虫こと、現ユーリの父と同じイエローアンバー(金目)。本来この「赤毛に金目」が「イヴァノーフ家の正統な特徴」とされていたため、それが原因で爺さんは御家争いに身を投じることとなる。ちなみに年のせいか狼化したせいか、文中で何番目の”ユーリ・イヴァノーフ”だか自分で忘れていたが、爺さんは三世、玄孫の現ユーリは四世。

‟紅のイヴァノーフ家”

 ユーリの父方の血筋。日本で言うと「佐藤」「鈴木」「高橋」くらいありふれた姓だが、その輩出してきた人間と逸話の多さから、伝説的な扱いを受けている。もっとも今現在は没落して、歴史の表舞台どころか記録から姿を消しており、伝説は伝説でも都市伝説の類。ユーリ以外にもこの血を引く人間がどこかにはいるはずだが、直系でこの名を継ぐのは彼一人で、おまけに知ってる奴は彼に伝える前に皆死に絶えたので、そのような人間の存在すら知らない。

 起こりはノルマン人達の全盛時代、戦闘奴隷をしていたスラブ系民族の赤毛の男に端を発するとされる。彼の勇敢さと強さに惚れ込んだウルボーグが彼と交わり、その子孫たちは彼女の血を引くと語り継がれている。
 以降も一族の者には「鮮血のような赤毛」「狼の金目」の特徴を持つ者が多く、それゆえ世間の呼び名には「紅」が冠されていた。
 その他にも優れた視覚・嗅覚・聴覚、卓越した身体能力と耐久性、直感的な判断に優れた頭脳と並外れた精神力と、代々優秀な軍人(に向く人間)を輩出する家系。内からも外からも「狼の血を引く」と言われ、開闢以来多くの有力者に取り立てられて高い地位に登りつめた。

 しかし先代ユーリ爺さんが若かりし時代、ロマノフ王朝が倒れる直前、本家の後継ぎ候補だった従弟が「イヴァノーフ家の血にそぐわない」金髪であったという理由から、勘当された母と隠遁生活を送っていた幼き頃の爺さんは、当主候補の対抗勢力によって本家へ呼び戻される。当然、当主になれるはずだった従弟からはたいそう妬まれ、やがて成長した二人は従弟の謀略により、一族全部と国をも巻き込む骨肉の争いを繰り広げることとなる。最終的には決闘の末、爺さんが従弟に勝利し当主となるが、終わった時には一族の人間もほぼ死に絶えていた。その後発生した二度のロシア革命でも、ほぼ一貫して敗北勢力側に着いていたため家は崩壊。先代ユーリ爺さんはシベリアに逃れ、二度とモスクワ方面へ戻ることはなかった。

 彼はシベリアの少数民族出身の妻を娶っており、家と世間の愚かさを倦んだ爺さんの願望を反映してか、その子供達は皆赤髪ではなかったという。かくて”紅のイヴァノーフ家”は、そのまま歴史の表舞台からも世間の認識からも姿を消すこととなるが、その後の子孫たちは少しずつ方々に拡散し、ヨーロッパ方面に戻った系譜の中には赤髪の形質を取り戻す者も出てきた。
 鮮やかな赤い髪でイヴァノーフ(女性の場合イヴァノヴァ)の姓を持つ人間がいると、「”紅のイヴァノーフ家”の者ではないか」と噂されることもあったが、百年近くたった今日ではそんな伝説を知る人間も少なくなっており、囁かれることはほぼない。そもそも爺さん以後はすっかり零落してしまっており、また大々的に家の名や謂れを語るようなことも慎まれていたため、かつて貴族に近い地位まで上りつめた家にしては(ソ連化の影響もあって)厳しい暮らしをしていたよう。

 表向きは正教徒だが、むしろ真摯に信奉しているのは自分たちの祖である聖獣・ウルボーグ(家の者からは「ワシリーサ」「女王」とも呼ばれる)。出生時や冠婚葬祭と年中行事に関して、彼女への信仰を中心に置く独特の習わしがあった。因習一家というのも薄々外には知られており、その武勇を称え敬われながらも、一方ではキリスト教圏の異教徒、そして死と争いをもたらす一族として蔑まれ忌まれる、まさに人が狼に抱くような、イメージの二面性を持った一家とも言える。
 まぁもうほとんど血筋も習わしも滅びたので関係ないんですが。

 従弟が仕掛けたとはいえ、先代ユーリ爺さんは彼を殺し、またその従弟も自分に対抗した血族の人間を死に追いやったことから、イヴァノーフ家の没落は聖獣達のような古い神々の嫌う、‟同族殺し”の罪により呪いを受けているためとも考えられる。なので爺さんこそが現ユーリの不幸の元凶とも言えなくはないのだが、そればっかりはやむを得なかったというものである。イヌに免じて許してやってほしい(っていうか現ユーリは今のところそれを知らない)。
 なお死後その魂を狼に取り立ててもらう基準だが、自分が望んでも最終的に選ぶのは先の祖霊達とウルボーグで、勇敢さ、強さ、忠実さ、「己に恥じない生き方を貫いたか」、「‟守るべきもの”を命がけでも守ったか」など、彼女が好む性質を評価軸にされる模様。逆に怯懦、卑劣と取れる生き方ばかりしていると突っぱねられる。というかウルボーグに食われて終わる。
 なので爺さんの従弟は普通に今、あの世(?)で狼として一緒にお仕えしている。赤髪じゃなかったので狼になっても金色。家を裏切ったのになんでやねんと思われるかもしれないが、従弟は従弟で「長い年月の間に、本質と関係のないルールを重要視し自己家畜化に陥っていたイヴァノーフ家を救いたい」、と思ったがゆえの行動だったため、ウルボーグはその点はお咎めなしだった模様。ある意味彼も己の責務に忠実に、一族のため、守りたいもののために真摯に行動したとも言える。百年近く経ったので、先代ユーリ爺さんとも一応和解は済んでいる。

 そして伝える時間がなかったためか、それとも因習と呪いを意図的に断ち切りたかったためか、現ユーリの父は生前、彼に家の来歴をほとんど語っていない(語ったところで理解はできなかったと思うが)。

 思うままにつらつら文字に起こした割には、やたら長いおまけになってしまった……。細部に違いはありますが、だいたいどのシリーズのユーリも(といっても今これしかアップしてないけど)こんな感じのバックグラウンドで書いてます。拙作の中で彼がどう考えても人間業じゃないあれこれをやってる際には、こいつウルボーグの血を引いてるからこんなバケモンなんだなーとか思ってくだされば幸いです。