槿花一朝のヴァレーニエ - 4/4

「何だ!?いったい何事だ!?」

「戦勝パレードかなんかじゃなかったの!?怖い!!坊やこっちへ!」

「アスカロンの連中だ!もしかして、政府に殴り込みか!?いいぞ“闘神”の天軍!やれぇ!!大統領を殺っちまえー!!」

「危ないです!市民の方は隠れて!」

「これは戦争だ!!無関係な非戦闘員はどけっ!従わない場合は政府方と見なして、不審な動きをすれば射殺する!!」

 霙は降りしきる。戦争を止めるための“戦争”、その大いなる矛盾を孕む町に降る。

 異変に気づいた者たちは怯え、戸惑い、家に隠れ、ある者は怒り銃口を向ける。うるさい虫どもを振り払いながら進む俺達に向けて、確かに賞賛と共感の声も放たれる。すべてを背後に押し流しながら、俺は街道を白い館に向けて進んだ。

 『何のために戦うか?』なんて、そんな御大層な理由じゃない。

 国のため?怒りのため?人の道のため?どれも正しくない。

 

 少なくとも――――俺はただ、俺達と同じ目に遭う子供たちの顔が見たくないだけだ。

 

 勝っても負けても、傷ついた世界に取り残され、飢えと寒さに凍える子供たちを見たくないのだ。たとえばどこかで落とされた飛行機の中に、同胞がいなかったからと言って、手放しで喜ぶなんて真似はできなかった。ほんの少し運命が違えば、そこにいたのは自分だったかもしれないから。

 他者は自分の合わせ鏡だ。それを傷つけ、痛みから目を背けることの愚かさを、そろそろ俺達は身をもって学ぶべきだ。

「衛兵が来る!こちらに気付いてるぞ!」

「総員戦闘配備!構え!狙え!……撃て!」

 そして学んだ末にぶつかる矛盾と、逃げずに向き合って乗り越えていくんだ。

 出した答えがどうであれ、責任は自らの手で取らなければならない。

 正解なんて、きっと無いんだろうけれども、それでもこの混乱の渦中にあって、俺がたどり着いた結論はこうだ。

 どうせ重ねる罪ならば、誰かのために贖罪を。

 数えきれない傷と夜を超えて、もう一度俺達に栄光を。

 何度だってやり直そう。間違えた道の怪物を倒し、抑圧の暗雲を払い、罪と後悔と反省を、石碑に刻みながら岐路を駆けていくんだ。いつまでも暖かい暖炉ペチカの中に、偽りの安寧の中に座ったままでいてはいけない。立ち上がれ。世界を見ろ。そうして傷つけてきた他者の痛みを、自分の痛みとして知るがいい。真の強さと美しさは、そこから生まれる。

 白い館はすぐそこに迫っている。

 何が正義かも分からない世界で、俺達は今日も抗いながら生きていく。

***

 差別と正道がぶつかり、疫病が跋扈し、大きな分断の進みつつあった時代。

 その極致とも言えるある戦争の最中、“侵略国”側の内で、一人の男が“扇動”したとされる暴動、「アスカロンの乱」。

 結果、一つの政府を瓦解させるに至るこの反乱は、やがて賛否両論の評価を伴って、ロシア近現代史に不滅の名を刻むことになる。

 しかし、それが実際に史実で語られるまでには、まだ暫し時を待たねばならない。

Fin.


 再燃して初めて仕上げた爆ベイ二次小説。そしてPixiv活動時代の最終期の投稿作品です。

 ……ええ、政治思想をキャラに語らせんなってのは分かるよ、でも書かずにはいられなかったんだあの時は。まさかその後三年経っても終わってないなんて思わなかった。私に彼らを堂々と愛でられた時間を返してほしい。

 碧星宮が軍事に疎すぎる(やっつけとはいえ今読むと描写が色々アレ)、かつこの設定と現世があまりにも解離してしまったためこれ以上書けないと思いますが、一応続編的なのはあるのでいつかは書くかもしれない。

 Blogに裏話&裏設定があります。こちらからどうぞ。