※「きかんしゃトーマス」及び「汽車のえほん」に出てくる11番とブレーキ車の小説。擬人化、微腐向け、キャラ崩壊有。ダメだと思った方はそっとページを閉じてあげてください。
※最後に若干メタな話があるので注意。メタネタが苦手な人もそっ閉じしてください。
「もうすっかり春だねえ」
「そうですね、ピクニックにはいいお天気です」
僕の第二次脱走事件から一カ月、僕たちは久しぶりに海辺にやってきていた。
傍らにはトード特製のサンドイッチと紅茶。ここで何をするでもなく、のんびり過ごした。
最近ずっと、トードがいなくなるかもって張りつめていたので、無事に直った彼とこうして気兼ねなく過ごすことが出来て、心からほっとしている。
日差しは暖かだった。空はどこまでも澄み渡り、在りし日のカレドニアン鉄道のブルーのように輝いている。風も心地いい。とても穏やかで、素晴らしい一日だった。
紅茶に口を付けながら、僕はふと、あることを思い出して訊いた。
「ねえトード、あの時、完全に気を失っていたよね?なんでいつものブレーキ車に戻らなかったんだい?」
「あっ、そう言えば……なんででしょう?分からないなあ……でも、『ここで戻ったらオリバーさんの迷惑になる』って、それだけを必死で思い続けていたような」
トードはここで初めて気がついたかのように、しばらく考えてから言った。あの日、彼はそんなことを思いながら、一生懸命ついてきてくれてたんだな……。そう思うとやっぱり早とちりしたことが申し訳ない気持ちになったし、自分は幸せものだとも思った。
海を見るトードの横顔を見つめる。
オーバーホールしてから、少し顔つきが変わった気がする。若々しくなっただけじゃなくて、何と言うか……より人間らしくなった、というか。そんな彼にふと、僕は訊いてみたくなった。
「ねえ、このまま人間でいることが普通になって、逆に機関車や貨車に変身しなきゃいけなくなったらどうする?」
トードは振り向いて、小首を傾げながらにこりと微笑んで、こう言った。
「どうするって……別に今の通りだと思いますよ。だって、どんな姿でも、僕は僕、オリバーさんはオリバーさんだから」
「なるほどね」
僕はうなずいた。
どんなに時が流れても世界が変わっても、僕は僕。トードはトード。
それだけでいい。それだけで、変わり映えしない毎日はいつも最高の一日になる。
僕と君がいる、当たり前という無上の幸せ。
……そう、日々、只、善き哉。
おしまい。