日々、只、善き哉。 第三話 ~トードの雪遊び~ - 1/4

※「きかんしゃトーマス」及び「汽車のえほん」に出てくる11番とブレーキ車の小説。擬人化設定。人によっては腐向けと取れる描写あり。その他、キャラ崩壊、設定の矛盾、原作との相違などなど、ご承知いただけない方は今すぐ方転して暖かい機関庫へ帰りましょう。

※一部センシティブな単語が出てくる箇所がありますが、特定の性別、性的指向を持つ人を貶める意図はありません。時間設定上(80年代後半~90年代頭の英国)、当時ならば世の未熟で汚い部分として、こういうことを言う輩も当然いただろうという想定の元、そのような表現を用いております。妙にリアル思考でごめんね。『日々ただ』には人間・車両含め、いい奴も悪い奴もいやな奴も出てきますよ。


 ソドー島の秋は駆け足で深まっていった。赤や黄色に色づいた木の葉が美しい彩りを見せたかと思うと、もう冷たい風に吹かれてカサカサと茶色く色褪せていった。

 間もなく、冬がやってきた。空気は澄み渡り、空からは毎日のように雪が降り出した。

 島のどこもかしこもふわふわで真っ白だった。もちろん、僕らのいる”小西部鉄道”も例外ではない。

 毎日寒いので、オリバーさんはちょっと渋い顔をしている。僕は、雪は大好きなんだけどね。

「うわぁ!雪!すごいや、本当にいっぱい積もってる」

 その日も夜中から大雪になるとラジオが告げていた。その日は特に早く目覚めてしまった僕は、いの一番に窓を開けて、そこから見渡す一面が銀世界に変わっていることを確かめて興奮した。

「楽しみだなあ……雪祭り行けるんだあ……自分の足で自由に見て回ってもいいなんて、本当、夢みたいだ」

 その日、僕らはたまたま仕事がなかった。線路は雪でいっぱいだしお客さんも家に閉じこもってるしで、さしてやることがなかったのだ。だから前々から行ってみたいと思っていた、雪祭りに行くことにした。

 ……そう、昔僕らが前日に雪だるまに突っ込んだ、あの雪祭りである……。あの時は僕がぼんやりしていたせいで大変なことになったが、子供たちは喜んでくれたし、それなりに楽しかった。人間だったらもっと楽しいだろうな、と思って意見は合致した。僕らはふたりで山あいの村へ出かけることにした。

「トード、君、手袋しなくていいの?外はすごく寒いよ」

 オリバーさんが怪訝な目で尋ねた。ご多分に漏れず寒さに弱い彼は、頭から爪先まで厳重な装備をしている。分厚い外套はもちろん、手袋も帽子もマフラーも。僕はというと、はしゃいでいたこともあって、たいして寒さを感じなかった。

「平気ですよ、オリバーさん。だいたい貨車の時は手袋なんてしてませんでしたから」

「そうだけど……人間の体と元の体は違うんだよ」

 マフラーと帽子だけで出かけようとする僕を見て、オリバーさんは釘を刺した。でも僕はすぐさま笑顔で否定した。

「大丈夫ですって!僕、こんなに元気なんですから。寒さなんてどうってことないですよー、オリバーさんは寒がりなんだから」

「まったくもう……喜びすぎだよ」

 苦笑されながら、それでも僕らは連れ立って出かけた。

 人間の足だと山の村へは結構かかる。

 道に積もった雪に難儀しつつ、ようやく見知った場所へ辿り着いた。だけどそこは普段の姿とはまったく様変わりしていて、なんだか一瞬の夢が現れたような気さえした。

「すごい、賑やかだね」

「はい。なんだか毎年すごくなってる気がしますよ」

 一面雪の積もった村の広場には、何体もの雪だるまや雪像が並び、あちらこちらに屋台や出し物の出店が所狭しと立ち並んでいた。

 人の方も大変な溢れようである。村の人よりもたくさんの人が来ているんじゃないかってぐらい、白い村ははしゃぐ顔つきでごった返していた。

「あっ、オリバーとトードだ!」

 会場に現れた僕らを見て、子供たちが声を上げる。僕らが人化したことは、既に顧客である沿線の人々にも知れるところである。人間であっても、機関車は機関車、子供たちの憧れであることには変わりないのだろう。すぐさま僕らは、興味津々ないくつものきらきらした目に囲まれてしまった。

「雪祭り見に来たの?」

「そうだよ」

 子供の一人に問われて、オリバーさんが答える。すぐさままた別の子がそこへ割って入る。

「オリバー、今日は雪だるましてくれないの?」

「えっ、あ、ああ……それはまた、次の機会に……」

 僕は思わず噴き出した。本当に、子供は可愛いけれど、たまに残酷なことを言う。人間の体ならずとも、彼には厳しい話である。あの晩どれだけ彼の泣き言を聞く羽目になったかということは、僕しか知らない。

「ねえねえ雪合戦しようよー」

「人間だからできるでしょ?雪合戦!」

 そんなことはつゆ知らず、子供たちは無邪気に僕らの手を引いて遊びに誘う。

「雪合戦?」

 聞き慣れない単語に、オリバーさんが首を傾げた。子供たちは手足を振り回しながら、笑顔で説明してくれる。

「うん。雪の玉をこう丸めて、相手側の奴らにぶつけ合うの。ビューン、ビューンって」

「いっぱい当てた人の勝ちね」

「へー……なんかずいぶん残酷な遊び……」

 子供たちの説明を聞いて、オリバーさんは苦笑いした。僕は逆にとても楽しそうだと思って、遮るように彼に言った。

「いいじゃないですか!雪の玉ですよ、当たっても痛くないですし。雪が積もってるから転んだって大丈夫です」

「そう?それならやろうか。せっかくだし」

 安全だと聞いて、オリバーさんもやる気になったようだ。子供達もにっこり笑う。

「じゃあ、決まりー!みんなおいで!オリバー達と雪合戦するよー」

 呼ぶが早いか他の子供達もあちこちから集まり、きらきらした目の群れはさらにふくれ上がった。こうして僕らの初めての雪合戦は始まったのだった。

「マシュー!ほらそっちに行ったぞ!やっつけろー」

「ちょっと!!なんで僕らだけぇ⁉あっ……冷たぁっっ!!」

「ひぃーっ!!もう勘弁してくださーい!!」

「きゃー」

「わー」

「「もうやめてぇぇ!!」」