日々、只、善き哉。 第0話 
Saga of the Western Engines 前編 ~1930-40s’  僕らのいた風景~ - 12/13

第七幕 九月の青空―――――前編・終幕

 駅長さんの言った通り、とはいかなかったが、少なくとも大きな空襲はそれきりでおしまいになった。敵国から飛んでくる飛行機はだんだん少なくなり、英国軍に追い返されて海の向こうへと撤退していった。

 貧しくきな臭い雰囲気が流れてはいたが、英国本土は戦場になることも無く、元あった平穏を取り戻していった。

 そしてついに、戦争は終わった。

 トードと一緒の、路線復旧用の物資輸送からの帰り道。僕らは揃って空を見上げた。晴れ渡った空に、緩やかな弧を描いて飛行機が飛んでいく。

 もう、あの飛行機は僕らを攻撃してこない。晴れやかな気持ちで、僕らは言葉も忘れ、しばし佇んだ。

 終わったんだな……。僕は改めてそう思った。鉄道は平和を取り戻し、今ではあの炎と煤にまみれた日々の方が遠い昔に思える。これからはもうずっと、またみんなで過ごす穏やかな日々が待っているんだ。そう思うと、それだけで、なんだかとても嬉しくなった。

「ちょっと飛ばしていこうよ」

「そうですね、こんないい天気は久しぶりです」

 青い空の下、風に吹かれて緑色の草原がどこまでも続いていた。青と緑の海の中を、僕らは軽やかにスピードを上げて走った。

 爆撃のない空。心地よく吹き抜ける風。透き通るような夏の日。何もかもが輝いていた。

 恵まれすぎているような美しい風景の中、僕らはとても、幸せだった。

***

 けれど、本当の戦争はむしろこれから始まるんだってことを、この時の僕らは知るよしもなかった。

 同胞であるはずの‟機関車”たちが、己の抱えるわずかな差異で退け合い、居場所を奪い合う、そして僕らの運命を大きく変えることになる、あの熾烈な‟戦争”が……。

後編につづく