その頃、駅では皆が帰って来ない仲間を待ちわびていた。
「……あと帰ってきてないのは何台だ?」
ローレンスは懐中時計を手に落ち着きなく言った。傍らの駅員がチェックリストをめくりながら答える。
「疎開避難に出た‟フクシア”と‟オールド・アーチー”……物資輸送の‟タイガーフット”、‟ミネルヴァ”……あと、‟オリバー”と‟パメラ”もまだ戻ってきていません」
「……そうか」
落胆と不安の色が乗務員や機関車たちの間に広がる。
「オリー……パミー……大丈夫だろうな」
「どうしよう、爆撃されてたら」
不安げに入口の方を見やるオーガスタスとイザベルに、オクタヴィウスが言った。
「馬鹿な想像はよしましょう。きっと帰ってきます」
その時、二つの汽笛が遠くから響いた。
「あれは誰だ?」
気付いたローレンスが、音のした方を眺め、目を細める。オーガスタスとオートコーチたちは逆にざわめき立ち、目を見開いた。
「この音……は!」
双眼鏡で構内を見張っていた保線員が、声を上げた。
「か、帰ってきた!あと二台が帰って来たぞ!あの姿はきっと4800クラスだ、‟オリバー”と‟パメラ”だ!」
「あ……」
歓喜の知らせに、群衆の中にもざわめきが走った。イザベルが安堵の笑みと同時に涙を浮かべ、そして思い切り、朝靄の中の二台に叫ぶ。
「おかえり!オリバー!トード!それにパメラ!」
割れんばかりに鳴り響く声が、僕らを出迎えてくれた。あちこちでピーッ、と甲高い汽笛が鳴る。
「よかった!無事だったかみんな!なかなか帰って来ないから、心配したぞ」
駅長さんが走り出てきた。ペッパーさんが帽子を脱いで敬礼をする。
「ルートを外れたんで、途中で休憩を入れたんです……どうもご迷惑おかけしました、駅長」
「お前らぁ!生きてたんかこのやろぉ!ようやった!ほんまにようやったで……!」
「ジュリアーン、やめてくれぇ……俺肩だけじゃなくて、全身痛いんだって」
オーガスタスのクルー二人も走り出て、こらえきれなくなったように僕らのクルーに飛びつき、肩を叩きあう。みんなが生きて帰ってきた僕たちを言祝いでくれた。
僕はオーガスタスに目を留めた。彼は静かに微笑んでいる。何も言わなかったけれど、言葉を交わさなくてもなんとなくお互いの気持ちは分かっていた。
「やれば出来んじゃねえか。ふたりとも見直したぜ」
兄さんは穏やかな微笑みを浮かべて僕らにそう言った。
「ありがとう」
僕も同じ微笑みで返す。
「えへへっ、褒められちゃったわ」
パメラは照れたようにはにかんでいる。
その時、僕らの頭上でプロペラ音が響いた。
「……また爆撃か?」
オーガスタスが緊張した顔で言うと、駅長さんが通過する飛行機を見上げて穏やかに言った。
「いや、あれは味方の飛行機だよ」
見れば、確かに羽には青と赤の円がついていた。大英帝国軍だ。飛行機は黄金に輝く朝の空を、誇り高い鳥のように優雅に舞っていた。
みんながそれを感慨深く見上げる中、駅長さんがつぶやくように言った。
「もう、終わりが近いようだ」