※擬人化二次創作。11×T。
※腐向け。butエロなし。駄目だと思ったら逃げましょう。
「ねえトード、あれは何?」
「あれはアンドロメダ銀河ですよ。僕らの銀河のお隣です」
ここはアールズバーグ港の埠頭。何とかいう流星群がやってくるというので、こうしてふたりで天体観測としゃれ込んでいる。辺りはひたすらに闇だ。しんと静まり返って、波の音と僕らの声しか聞こえない。対岸の明かりが地上の星空に見える。
「アンドロメダ姫は、お母さんの自惚れで生贄にされたんです」
「ええっ、可哀想……まるで僕みたいなお母さんだな」
「はい、でもペルセウスっていう勇者が彼女を助けてくれて、最後はちゃんと救われるんです。本当に僕達みたいですね」
彼はそう言って笑った。どっちがお姫様やら、と苦笑しながら空へ目を移す。
見上げた星空には、僕の知らない物語がたくさんある。彼は、それを良く知っている。トードと星を見る度に、それが一つひとつ明らかになるのが楽しい。
無邪気にオリオンの形をなぞる彼を、僕は温かい気持ちで見つめた。彼の指先を追って、僕の心も星々の波間に飛んでいく。
ふと、その中の一つが目に留まった。
「トード、あれは?あの、二つくっついてるやつ」
「えっ、オリバーさん、あれが見えるんですか?……あれはミザールとアルコル、おおぐま座の二重星です」
トードは驚き、僕にその理由を話した。
「オリバーさんの言う通り、肉眼でも二重星だと分かりますが、相当目が良くないと二つに見えないんです。“目試しの星”と言って、昔は兵士の視力検査に使われたそうですよ。でもあれは偶然同じ方向にあるだけで、二つの間は実はずっと離れているんです」
「離れてるって、どれぐらい」
僕が問うと、彼は首を傾げた。
「さあ……何億光年とかじゃないでしょうか。そこまで離れていると、お互いが消えてもすぐには気がつかないかもしれませんね」
「えっ……」
何気なく言われたその言葉が、ふいに胸に刺さった。孤独な宇宙に、ぽつりと浮かぶ二つの星が頭に浮かんだ。
見えない距離で隔てられ、独りになったことに何億年も気づかないふたり……。
「まるで僕たちのようだ」
「えっ?」
「なんでもない」
独り言にふり向いた彼を、僕ははぐらかした。
トードは“星めぐりの歌”を歌い出した。僕が今感じたことなど何も知らず、いつも通りの声で。
年に似合わないあどけなさで、一心に歌う横顔を見て思う。
……君がいなくなった時、僕は気づけるのだろうか。君が側にいることに慢心して、突然消えたことにいつまでも気がつかないのではないか。
なんだか悲しくなって目を閉じた。その時だった。
「あっ、流れ星」
弾むトードの声で慌てて目を開けた。間に合うはずもない……と思った瞬間、その後を追うように次々と空の星が流れだした。
か細い光の矢が、銀の光を伴っていくつも漆黒の闇を駆けてゆく。もはや星の群れなどではなく、銀河に降り注ぐ雨のようだ。
「……わぁ……」
「きれい……」
しばしふたりでその光景に見とれた。
儚く燃え尽きる星達が織りなす、夢のような時が僕の心を癒した。
……たぶん、たぶんだけど僕たちは、本当の意味で分かりあうことは一生ないのだろう。それでもいいと思った。
たまたま同じ方向を向いただけで、短い命を別々に歩むふたり。
そんなものが今ここで一緒に星を見ている奇跡に、僕は祈るよりも、ただ感謝せずにはいられなかった。
Fin.
かつていい夫婦の日に投稿したやつ。
……と、いうわけでもなく、実は過去にまだいろんな人とつながりがあったころ、アンソロ企画に寄稿しようと思ってボツにした話です。理由は文字数がどうしても削れなかったから(←いつも通り)。
作中でトードさんが数億光年と言っていますが、実はミザールとアルコルの間は4光年くらいしか離れていなかったりします。それでも光の速さで4年だから相当ですが。ふたりの距離と一緒で、遠いようで近い、近いようで遠い。
ちなみに本文にはちょっとした遊び心がたくさん仕込んであります。気が向いたら探してみてください。ヒントは「星」と「歌」です。